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東京地方裁判所 昭和45年(むのイ)1125号 決定 1970年6月19日

被疑者 警視庁荏原警察署留置番号三五番 外九名

決  定

(被疑者氏名略)

右被疑者らに対する兇器準備集合等被疑事件について、その弁護人となろうとする弁護士竹内康二から接見拒否処分に対する準抗告の申立があつたので、つぎのとおり決定する。

主文

一、東京地方検察庁検察官栗田啓二が昭和四五年六月一七日荏原警察署に赴いてした申立人と被疑者荏原警察署留置番号四二号ないし四四号、同四〇号及び同三五号との接見を拒否した処分はこれを取り消す。

二、申立人のその余の申立を棄却する。

理由

一、本件申立の趣旨及び理由は添付の準抗告申立書写し記載のとおりであるから、これを引用する。

二、当裁判所の事実調の結果によれば、つぎのような事実、すなわち、

1、申立人は昭和四五年六月一七日午後三時ころ荏原警察署に留置中の冒頭掲記の被疑者らの依頼により弁護人となろうとする弁護士として右被疑者との逮捕後初めての接見を求めるため同警察署に赴いたところ、係警察官より、右被疑者らについては事件を検察官に送致ずみであつて、検察官がまもなく来署する旨の説明を受けたため検察官の到着を待つていたところ、同日午後三時一五分ころ同署に栗田啓二検察官ほか一名の検察官が到着し、直ちに右被疑者らの取調を開始し、八田検察事務官を介して、栗田啓二検察官ほか一名の検察官より申立人に対し、すでに取調を開始したから接見させることができない旨及び接見は取調が終つてからにしてもらいたい旨を伝えたこと、

2、栗田啓二検察官は前記被疑者らのうち留置番号四一号ないし四四号、四〇号及び三五号の取調を担当し、右の順序でその取調を進め、同日午後五時四〇分ころその取調を終了したこと、

3、冒頭掲記の被疑者らは逮捕されたのちにおける司法警察員による弁解録取書作成の段階において、弁護人として斎藤浩二弁護士あるいは同弁護士又はその指定する弁護士を弁護人に選任する旨の申出をしており、申立人は斎藤浩二弁護士より右被疑者らに関する弁護を一任する旨の連絡を受けたうえ、荏原警察署に赴き、栗田啓二検察官らが到着する前の時点において、同署勤務警察官に対し、右被疑者らの依頼により弁護人となろうとする弁護士である旨の申出をしていたこと、

をそれぞれ認めることができる。

三、刑事訴訟法第三九条第三項によれば、捜査のため必要があるときは、検察官において、公訴の提起前に限り、身体の拘束を受けている被疑者と弁護人となろうとする者との接見に関し、その日時、場所及び時間を指定することができることは明らかであるけれども、検察官において捜査上必要があるからといつて、その接見を全く拒否することができないことはいうまでもないところである。

前記認定の事実関係に徴すると、申立人が接見することを求めた被疑者は一〇人を数えるわけで、栗田啓二検察官がすでに留置番号四一号の被疑者の取調を開始していたとしても、その余の被疑者について何ら接見の日時、場所及び時間を指定することなく単に接見を検察官による取調の修了後とするようにと伝える処置をとつたことは、すべての被疑者に対する取調終了時刻がその時点では不確定であつたこと、各被疑者についてそれまでに弁護人ないし弁護人となろうとする弁護士との接見がなされていなかつたことからいえば、接見の拒否処分と同視すべきものであつて違法といわなければならない。

なお、留置番号四一号の被疑者についていえば、栗田啓二検察官の同被疑者の取調を開始する前に、申立人から荏原警察署係警察官に対して接見を求める申出がなされていたこととなるけれども、同検察官は冒頭掲記の被疑者のうち留置番号四一号ないし四四号、四〇号及び三五号の被疑者の取調のため荏原警察署に赴き、間もなく留置番号四一号の被疑者の取調を開始したのであり、申立人の接見の申出も検察官が取調中の被疑者についてまで接見を求める趣旨ではなかつたことが準抗告申立書自体によつて明らかであつて、同被疑者だけについていえば、当時の捜査段階に徴して、その取調所要時間がさほど長時間にわたるものではないことが申立人にも推測できるものであつたと認めることができるから、同被疑者との接見に関する栗田啓二検察官の処分はまだこれを違法であるとは断じ難い。

付言すると、申立人は、接見の申出に際し、被疑者の依頼により弁護人となろうとする者であることの文書による疎明資料を栗田啓二検察官に呈示しなかつたものとみられるけれども、被疑者らの前記のような弁護人選任に関する申出状況及び事件がすでに検察官に送致されていたことに徴すれば、弁護士である申立人が口頭で斎藤浩二弁護士より被疑者らに関する弁護を一任されたものである旨を申述すれば、前記捜査段階においては、右疎明資料はととのつたものと解するのが相当であり、右のような申述は申立人が接見を求めた時点において容易に得られるところというべきであるから、本件において、文書による疎明資料の呈示がないからといつてその接見を拒否することは相当ではない。

なお、申立人は留置番号三六号ないし三九号の被疑者との接見を拒否した栗田啓二検察官の処分の取消をも求めているけれども、同検察官が取調を担当した前記被疑者以外の被疑者について接見拒否処分をしたものとは認められないので本件申立のうち右部分はその理由がなく、また、本件申立中「検察官は申立人と被疑者らとの接見を妨害してはならない」との裁判を求める部分は、申立人の各被疑者らとの今後における接見を検察官において妨害するおそれがあることを肯認するだけの資料はないので、右部分もその理由がない。

そこで、刑事訴訟法第四三〇条第一項、第四三二条、第四二六条により主文のとおり決定する。

(別紙)

準抗告申立書

(被疑者氏名略)

申立の趣旨

東京地方検察庁検察官栗田啓二が、昭和四五年六月一七日、申立人に対してなした申立人と被疑者らとの接見を拒否するとの処分を取消す。

検察官は、申立人と被疑者らとの接見を妨害してはならない。

との裁判を求める。

申立の理由(略)

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